市場価格はおおよそ20〜30万円。 それが今回、私たちはこの個体に40万円という価格をつけました。
さっそくですが、今回のオールドインターについて。砲丸インデックスの雰囲気がよいこの個体に40万円の値段=価値を見出していることを説明させてください。
一見すると、少し強気に見えるかもしれません。 ただ、この価格には明確な理由があります。
■ この時計の正体
オールドのIWC、いわゆる“オールドインター”のドレスウォッチ。 35mmという当時のスタンダードサイズに、手巻きのCal.89を搭載しています。
派手さはありません。 しかしこの時計は、“バランス”で成立しています。
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無駄のないダイヤル
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控えめなインデックス
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細く伸びたラグと薄いベゼル
いずれも主張しすぎず、しかし確実に整っている。 この“整い方”は、ある時計の系譜を想起させます。
■ 比較対象:Calatrava Ref.570
もしこの時計にロゴがなかったとして、純粋にデザインだけを見た場合、 多くの人が連想するのはPatek Philippeのカラトラバ、とりわけRef.570の系譜ではないでしょうか。
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余白を活かしたダイヤル設計
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シンプルな3針構成
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ケースとラグの自然な一体感
視覚的な構造は、非常に近いものがあります。
■ それでも価格は大きく違う
Ref.570は素材にもよりますが、
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WG / YGで数百万円帯
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ステンレススチールではそれ以上(希少性によるプレミア)
一方で、このIWCは市場で20〜30万円程度。
単純に見れば、10倍以上の差があります。
■ ブランド評価という“前提”
ここで重要なのは、単なる品質差ではなく、ブランドが担っている役割の違いです。
● Patek Philippe
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ドレスウォッチの頂点という確固たるポジション
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歴史・系譜・コレクター市場まで含めた評価
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「所有すること自体に意味がある」ブランド → 時計単体ではなく、“文化や資産性”まで含めた価値
● IWC
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実用性と堅実な作りを重視するブランド
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過度な装飾よりも合理性
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「使うための時計」としての信頼 → あくまで“道具としての完成度”が評価の軸
この違いによって、同じようなデザイン構造を持っていても、 市場での評価は大きく分かれます。
■ その差はどこまで“時計そのもの”か
もちろん差は存在します。
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ケース仕上げの緊張感
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ムーブメントの美観や薄さ
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細部の作り込み
ただし、それらがそのまま価格差――数倍から十数倍――として 比例しているかというと、少し違って見えてきます。
■ Cal.89という基盤
この時計の中核であるCal.89は、
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長年の実績に裏付けられた耐久性
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安定した精度
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メンテナンス前提の合理設計
といった、「日常で使うための完成度」が非常に高いムーブメントです。
華やかさではなく、使い続けるための設計。 ここにIWCらしさが表れています。
■ 私たちが40万円とした理由
現在の市場価格は20〜30万円前後。 それを踏まえたうえで、私たちはこの個体に40万円という価格をつけました。
理由はシンプルです。
この時計は「価値が低い時計」ではなく、 ブランドの文脈によって相対的に低く評価されている時計だと考えているからです。
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デザインはカラトラバに通じる完成度
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ムーブメントは実用機として非常に優秀
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サイズは35mmというクラシックな理想形
これらを総合すると、現状の市場価格はやや控えめに映ります。
■ 今後についての見方
オールドインター全体としても、近年は再評価の流れが見られます。 派手さではなく「質とバランス」で選ばれる時計が見直される中で、 この領域は今後価格が上がっていく可能性があると考えています。
■ 最後に
もしこの時計にパテックのロゴが入っていたら―― 少なくとも、今の価格帯には収まっていないはずです。
ただし、それは単純な優劣ではなく、 どの文脈で評価されているかの違いです。
時計の価値は、スペックだけでなく、 ブランドと市場が与える“意味”によっても形づくられます。
このIWCは、その意味づけが変わりつつある一本なのかもしれません。
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